「ミルク喜多の知らない世界」#05

「カジカジ」連載コラム 2020.02 No.280 掲載

皆さま、新年あけましておめでとうございます。おかげさまで本コラムも気づけば5回目。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

さて、お正月といえばおせち料理。素材の味を感じられる日本食に触れる機会だ。そんな素材の味だが、「衣」の分野ではいかがだろうか。

 昨年11月末、私は東北・宮城県東松島市のコットン(綿)農園にいた。一面に咲き誇る、真っ白でふわふわなコットンの収穫時期だ。日本最大級のコットン畑に、全国各地から一般の方々や企業が集まり、皆でワイワイと収穫する。

『東北コットンプロジェクト』というこのプロジェクトは、2011年の東日本大震災の津波被害を受けて土の塩分濃度が上がり稲作が困難になった農家が農業を再開できるよう支援する為に、地元の方々をはじめアパレル関連企業も参加し始まった。私もあまり知らなかったのだが、コットンは比較的塩分濃度にも強いようだ。そんなコットンを育てる事で土壌を回復し、また稲作などに移行できるようにと、多くの人々の協力で毎年継続されてきた。

今、この東松島市の農園では、一面にぎっしりとコットン畑を見ることができる。現地で共に収穫していると、農家の方、参加されている地元の方々、当初から携わっているプロジェクトの方々が本当に楽しそうだ。これまできっと計り知れない多くの苦労があっただろうが、そんな事は一切感じない空間だった。また、コットンの収穫だが、肉体的にもなかなかの重労働である。

 皆さんは、毎日着ている洋服の素材の生産者や想いまで考える事はあるだろうか。「食」に比べて、素材が姿を変えすぎているので、きっと感じ取りにくいはずだ。昨今ではオンラインショップでの購買層も多くなり、ますます服の素材を触れて確かめる機会が減っている気がする。しかしながら、洋服の素材にも必ず生産者がいる。今回、コットンの収穫を通じて忘れかけていた感覚を思い出すことができた。それは、裏側のストーリーの理解だけではない。製品を触り倒し、肌触りがいいだの悪いだのとか言っていたあの頃の感覚だ。きっとこれが「衣」でいう、素材の味を噛みしめるという事なのかもしれない。確かな想いと品質が素材にも宿っている事を忘れぬようにしたい。日本ではほとんど見ることができないコットン畑。一度、東北に足を運ばれてはいかがだろうか。



喜多 泰之 – Yasuyuki Kita

1987年大阪生まれ。2007年より大手セレクトショップにてPR・バイヤー・イベント企画・家具企画・CSRを担当。
2018年春に独立し、現在は「MILKBOTTLE SHAKERS」の屋号でアパレルを軸に様々な業界とのプロジェクトを推進。2019年「株式会社MILKBOTTLE SHAKERS」を設立。代表取締役。