「ミルク喜多の知らない世界」#07

「カジカジ」連載コラム 2020.06 No.282 掲載
 最近たまに正解が見えないことや矛盾しているなと思うことがよくある。例えば、地球上にいる約15億頭の牛のおならとゲップが地球温暖化に大きく影響を及ぼしているという話。牛には胃が4つあり、牛1頭がゲップとおならをして放出するメタンガスの量は、1日160〜320リットルにも上るそうだ。CO2と同様、メタンガスも地球温暖化に大きく影響している訳で、多くの研究者たちが牛の体内メタンを減らす餌開発に真剣に取り組んでいるようだ。以前、ビーガンの方がこの問題を取り上げて、牛を食べることは良くないというようにパブリックに定義しているのを見かけた。一方で、餌のイノベーションに尽力する研究者がいる。そして、それで代々生計を立てる、酪農家や食肉産業の方々もいる。ファッション業界でいえば「いい事だからエコレザーを使おう」みたいなノリだけで言ってしまう人もいたりで、意外とそういう人が「大好物は焼肉です」と発言したりする。私の知る限りでは、多くのレザーは食肉産業の副産物なので、肉を食べる文化がある限り革はなくならないのではと思う。
 他の例だと、エコバッグ。英国環境庁が2011年に発表した報告書によると「地球温暖化の可能性」を使い捨てレジ袋よりも少なくするには、コットンのバッグを131回使う必要があるという。しかもこれは、レジ袋を再利用しないという前提での数字だ。私の意見では、企業やブランドはエコバッグという謳い文句で安価なバッグを作りすぎていると思う。時にはノベルティで大量に配布される。ここで問題なのは、それを先入観だけでエコだと勘違いして行動してしまう場合だろう。もちろん、啓発や発信としては素晴らしいと思うのだが。
 他にもフェアトレードや羽毛、食品ロス問題など、本当に多くの場面で矛盾や疑問が生じることがある。立場や視点が変われば、その人の意見や見解も180度変わっていたりする。まさに何が正しく何がいけないのか、答えのわからない命題だ。
 私は今回例に上げた話題について、誰かを間違っていると言えるほどの人間ではないし、専門知識も乏しい。ただ、昨今の「サステナビリティ」というワードに踊らされて、無知のまま先入観だけでアウトプットをするダサい人間にはなりたくないと感じる。そのためには、自分の知らない世界に関心を持ち、耳を傾け、多くを見る必要があると思う。その上で、自分のフィルターを通して「俺のスタンスはこうだ」と表現する事が大切なのではないだろうか。無論、平和で美しい地球を望む事は皆同じはずなのだ。

喜多 泰之 Yasuyuki Kita
1987年大阪生まれ。2007年より大手セレクトショップにてPR・バイヤー・イベント企画・家具企画・CSRを担当。
2018年春に独立し、現在は「MILKBOTTLE SHAKERS」の屋号でアパレルを軸に様々な業界とのプロジェクトを推進。2019年「株式会社MILKBOTTLE SHAKERS」を設立。代表取締役。